昔の話
公園のベンチに丸まっているよぼよぼの茶トラは、長老と呼ばれていた。長老はうんと長く生きているから、なんでも知っている。
「神さまはな、《光あれ》ゆうてあのお日様を作らはったんや。六日かけて世界をぽんぽん作ったあと、さすがに疲れて休憩しはった。ごろん、て横にならはったけど、なんや物足らん。そんで《猫あれ、地に満ちよ》言わはったんや。神さまはそれでようやっと満足しはったんやて」
「わしらがふみふみするから、地球は回っとるんや。秘密やで、誰にも言いなや」
「わし、実は尻尾が三本あるねん」
若い猫たちは熱心にふみふみする。気が向いたら人間のお相手をしてやる。互いの尻尾を数え合う。
お日様みたいに毛を光らせて、長老は日なたで伸びをする。
「なべて世はこともなし、やなあ」
ごろん、と横になっていた背中をふみふみしたのは、もうずっと昔の話。