救いの美音

 今夜も月の光がとても綺麗だ。光の下に次々と猫たちが集まってくる。そう、チョビが今夜も又美しい音を奏でているからだ。チョビは決して晴れた月夜の晩だけに奏でているわけではない。風の日も雨の日も、そう暴風雨の中でだって必ずみんなを酔わせてくれる。
 ある日猫たちの中で噂が立った。チョビはいつも私達を癒してくれるけど、一日だけ居なくなる夜があるって。
どうしてるのかって思い切って聞いた仲間の猫がいた。
 チョビは微かに微笑んで応えてはくれなかった。

 チョビには大好きな愛おしい人がいた。その人との出逢いはチョビの運命を翻弄させた。赤ちゃんだった頃小学校に通う猫好きの女の子に拾ってもらった。反対する親御さんを涙を流して説得してくれてチョビはその女の子の家族になった。嬉しくて嬉しくて毎日女の子の帰りを玄関で待ち、扉が開くと真っ先に飛びついた。優しい愛おしい人の笑顔を見るとチョビは心から幸せを感じた。楽しい思い出もたくさん出来た。

 でもそんな幸せな日々も長くは続かなかった。事情があり、チョビと女の子は引き離されてしまう。女の子は泣き暮らした。もちろんチョビも同じだった。

 数十年が経ち大人になった女性は毎日のようにチョビの事を思い出している。泣き腫らした目でいつも心の中でチョビに守ってあげられなかったことを謝っている。

 虹の橋を渡ったチョビは下界で苦しむ女性をなんとかして救いたいと思った。
 そうだ!音楽が大好きな女性に美しい音を届けよう。
 苦しまなくてもういいんだよ。貴女の気持ちはしっかりと私に伝わってるから。

 温かい音が届くようになって女性に心からの笑顔が戻ってくるようになった。チョビはそれが何よりも嬉しかった。

 女性はその音色に救われ新しい自分を取り戻した。
 でも奏でてくれているのがチョビだとは気がつかなかった。

 それでいい、それでいいんだ。
 ひとの顔をして微笑んでいるチョビが今夜も美しい音を奏でてくれる。


鈴木さえこ
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