創猫記

 あれは猫であろうと思う。

 憂木(ウレキ)はフレームのない伊達眼鏡の隙間から、アスファルト上の白いポテリとした物体を見やった。

「運命め、こんどこそ裏をかいてやる」

 間の抜けた鼻声をしているが、その表情は鬼気迫るものがあった。
 なにしろ彼女には人類よりひと足早く、終末が訪れていたのだ。ある日を境に観測し得るすべての範囲から、猫という猫が消え去った。世の中には変わらずいるらしいのに、自分の前だけ影も形も現さない。これを世界の終わりと言わずになんと言おう。
 だから必死で猫を探してる。ついに視覚に惑わされないようにと、目が悪いのに眼鏡を伊達にした。五感を五割はうち捨てて、猫感を研ぎ澄ませるのだ。

「いまだっ」

 意を決して道路に飛び出し、憂木は白いものと対峙する。すると、コンビニの袋が顔をもたげてニャンと鳴いた。

「うん?」

 はたしてこれは猫だろうか。
 憂木は悩んだ末に「猫あれ」と呟いて連れ帰った。そして七日目に共にごろ寝をした。


碧馬あき
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