ネコの話

 兎角此の地は住み易い、といふのは友の言である。
 然し、私も其れを否定する気は更々無かったので、鳴呼其の通りだとも、等といふ極簡単な返答をしたのを覚えてみる。彼はと言ふと、常日頃から思案深い質であり、他と比べても其の頭脳たるや勝とも劣らず、無論凡たる私には理解の到底出来ぬ物であつたし、抑に於いて、彼のやうに昼夜問わず海馬を唸らせてみるといふ者を私は見た事が無かつた。
 其の彼が、である。
 息乱し走り込んで来たと思へば、普段の物静かな彼とは思えぬ大声で斯様に宣ったのである。

「ネコ、といふものがこの地に居るやうだ」

 私はといふと、彼にも知らぬ事があるのかと其れはもう面食らってしまつて、然し其の単語には何処か聞き覚えがあるやうな気がして、ううむ、等と唸って見せた。
 彼の言に依ると、此の地に我等と同じやうに古くから生息しているヒト(飽くまで我等の使う呼び名 であり、正式な彼等の学術名等は知るに至らぬのであるが)が「此処にはネコが沢山居る」等と言って みたのだといふ事である。「可愛い」「小さい」等と部分的情報は拾えども、我等は其のやうな存在を古くから此の地に住んでみるものの終ぞ見た事が無い。

「全く分からぬ、ネコとはどのやうなものなのだらうか」

 さう言ふと、彼は鯖色の綺麗に立つた尾を揺らして見せた。
 此れは、彼の思案の時の癖である。


篁綴
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