我が友に捧ぐ
「今日は散歩に行こう。我が友」
そう言って笑う彼が好きだった。大きな手で私を撫で、とんちんかんな鼻歌で頭を揺らして、本を開いては眠ってしまう彼が好きだった。
共に見る外の世界が、風が、空が、景色が、好きだった。草の匂いも、揺れる花も、柔らかな土も、人間が作る固い地面とて、彼と味わうこの世の生すべてが好きだった。
「ごめんなさい。」
だのになぜ、逝ってしまったのか。
「あなたからおじいちゃんを奪って、ごめんなさい。」
私だけが住むこの部屋に、彼女だけがやってくる。彼が褒めてくれた音の出る機械も、今では開くのは彼女の役目だ。
「悲しい曲…」
目から水を垂らして彼女は言う。私は音を鳴らし続ける。目を閉じれば、すごいと言って笑う彼の姿が見えるから。私は奏で続ける――命終える、その時まで。